LIVE REPORT

9月6日(日)23:59までライブアーカイブ視聴可能!
9人が証明した「私たちがここに立つ理由」
『カミングフレーバー 初単独ライブ“せ~ので言おうぜ”』ライブレポート

「人間は何者かにならなければならない」
ステージに立つ9人の姿を目で追い続けた約100分間。名古屋へと向かう新幹線車内で何気なく読んでいた本の中にあったその言葉が、幾度となく頭をよぎっていた。

 8月30日、カミングフレーバーにとって初めての単独ライブは、名古屋市今池にある老舗ライブハウス・ボトムラインにて、たった一人だけの観客を入れて行われる……はずだった。というのも、事前の抽選によって選ばれ会場にやってきたその人は、2度の検温により「体調不良」と判断され、残念ながら現地にて観覧することはかなわなくなってしまったからだ。
  一瞬、現場の空気が慌ただしくなる。ライブ開演30分前のこの出来事は、スタッフはもちろん、当然メンバーたちにも少なからぬ動揺を与えていた。「1名限定の有観客ライブ」という開催方式は発表時点からそれなりに話題にもなっていたし、何よりメンバーは、一人とはいえファンの生の反応を見ながらライブを行うことができる。ゼロか1か、これは見た目の数字以上に大きな違いだ。
だが、その動揺も「一瞬」だった。そもそも、この単独ライブは3月20日に行われるはずだったが、新型コロナウィルス感染拡大防止の観点から中止になっていたものだ。あの時はできなかった。いつできるかもわからなかった。でも、今日はできる。それだけで彼女たちには十分だったのだろう。数分前にバックヤードでスタッフから事の顛末を伝えられ、「えー!」「本当ですか?」「かわいそう…心配だ~」と声をもらしていた9人だが、円陣のために集まってきた時にはもう、それぞれの顔にはほどよい緊張感、何より笑みが浮かんでいた。いよいよ、幕が上がる。

カミングフレーバーにはオリジナルのOverture(直訳すると序曲。ライブ本編開演前に流れる出囃子のようなもの)がある。彼女たちの“本籍地”であるSKE48にも当然あるが、この場所で流されることはない。それはある種の決意表明でもあるし、明確な線引でもあると筆者は解釈している。高らかにそのキラキラした音色が鳴り響く中、力強い足取りで9人はステージへと姿を現した。
 M1、全ての始まりの曲。『せ~ので言おうぜ!』。
 この曲が彼女たちに与えられた昨年7月、きっと誰も、1年後に「勇気を出して思いを伝えようソング」以上の意味を持つことになるなど想像もしていなかっただろう。SKE48のシングル『FRUSTRATION』のカップリング曲の一つであり、歌っているのは表題曲の歌唱メンバーになれなかった若手9人の即席ユニット。誤解を恐れずに言えばそういった印象だった。だが、偶然が重なった上での、昨年末に行われた「48」の冠がつかない他グループとの大規模対バンイベントへの出場と、彼女たちのファンなど皆無に等しい1万2000人超満員の横浜アリーナでのパフォーマンス披露という経験(もちろん、そこに立てる最低限のレベルに達するまでに最大限積み上げたレッスン期間も含めて)を経て、9人は少しずつ、そして確実にチームになっていった。それと同時に、『せ~ので言おうぜ!』という曲もキラキラと輝く宝石のようなものに変わっていく。この曲があったから、9人がいる。この曲があったから、今ここで歌えている。この場所で満員の観客の前で歌うはずだった日から5ヶ月間、9人が9人でいられる保証なんてどこにもなかった。むしろ、未曾有の状況下においてはそのままフェードアウトする可能性の方が高かったはずだ。その日々を越え、自分たちだけのステージでカミングフレーバーは叫んだ。 。

「さぁ、行くぜ!」

 フロアがビリビリと震えた。長い時間と、こちらが想像する以上の努力を重ねてきたであろうことがはっきりと分かるダンスは気持ちが良いくらい息が合っているものの、出だしは一曲目ということもあってか、表情や声に若干のかたさが見て取れていた。それが、この瞬間に圧倒的な「喜び」へと昇華された。あとはもう、楽しさを爆発させて突っ走るだけだ。その「喜び」や「楽しい」といった、9人から発せられる純度の高いポジティブなエネルギーは、ここから最後まで一瞬も途切れることはなかった。

 このライブを観て、今この記事を読んでくれているあなたには、あの100分の間にどんな想いが湧き上がってきていたのだろうか。きっと披露された17曲、そしてメンバーの仕草ひとつひとつ、無数の瞬間に感情は揺さぶられっぱなしだったのではないかと想像している。
 ここまででも相当な文字数を使ってしまっているが、その一人である筆者なりの視点で9人について、楽曲と絡めながら振り返っていきたい。まずは9期生から。

青海ひな乃。
天性のフィジカルアドバンテージから繰り出されるその力強いパフォーマンスは、9人の中でも群を抜いていると言っていい。楽しさと同時にどこかいつもギリギリな感じと、切迫した空気を共有しているカミフレだが、こと彼女に関しては「やるしかないっしょ! ガハハハ!」と、あのでかい声で豪快に笑い飛ばす前向きさに満ちているのだ。M4『ホライズン』では一段とギアを上げた強烈な印象があり、見返してみると手元のメモには「ビッグウェーブ! 青海さん!」と書いてあった。

赤堀君江。
今回の新衣装披露からは「黒」を担当することになったが、自他ともに認める「病みがち」な性格に起因する、その反動でのステージ上での爆発力は、幼さの残る美形フェイスと相まって、目が離せない存在感を放っている。M6『ライフルガール』ではまさに、黒い弾丸となって画面の前のあなたのハートを撃ち抜いたことだろう。本人は信じてくれないかもしれないが、「正真正銘のアイドル」を見せつけてくれていたということを、記しておきたい。

鈴木愛菜。
9期生の甘えん坊な末っ子は、全曲どこにいてもそのビッグスマイルで周囲を明るく照らしていた。また、158センチとごく普通の身長ながら、驚嘆すべきはその腰の位置の高さ。持って生まれたスタイルの良さで、あらゆるパフォーマンスを「美しく」見せることに無自覚ながら成功している。M7『彼女がいる』のセンターポジションで、クルッと回転し彼女のスカートが軽やかに、美しい軌道を描いた時、雲が晴れ爽やかな空気が流れたかのような錯覚を覚えた。。

田辺美月。
さかのぼること2週間前、ニコ生で放送された超アイドル夏フェスの出演後、現地にて少し話す機会があったのだが、彼女は「自信がもてない」と涙を流していた。しかし、この日の田辺は違った。きっと、自分を追い込み練習に明け暮れていたのだろう。背筋を伸ばした立ち姿はとても凛々しく、もともと高かった表現力はさらにレベルアップしていた。映像には映っていなかったが、M3『花の香りのシンフォニー』で、靴のリボンが外れかけるアクシデントがあったのだが、さっとしゃがみ、ためらわずにリボンを靴の中に押し込んで立ち上がったその顔には、あの日見せたほんの少しの弱さは微塵もなかった。

続いてドラフト3期生の4人について書いていく。

大谷悠妃。
彼女自身は冗談めいて「天才」と言ってるきらいもあるが、本当に天才なのかもしれない。筆者が思うに、大谷はとても共感性が高い。仲間の悲しんでる姿を見ては、自分でもわからなくなるぐらい涙が出てしまうし、みんながハッピーならば誰よりも幸せになれるという人だ。M5『キスポジション』のセンターに立つ彼女を見ていると、センターとは何か、選抜とは何かを考えてしまう。なんというか、重さがない。心が暖かくなるような多幸感しかない。そしてM13『不器用太陽』、雰囲気の作り方と表情、鳥肌ものである。やっぱり彼女は天才なのだと思う。

中野愛理。
ダンスの先生からは困ったように、「いつも本番と同じだったらわかりやすいんだけど(笑)」と言われたという。それぐらい、カミングフレーバーとしてステージに立っているときの彼女は別人格のように、本来の自分を解放しているのだろう。センターポジションを任されたM8『カナリアンシンドローム』、往年のファンは年々美化されていく思い出をそこに重ねるかもしれない。だが、彼女が観てほしいのは今であり、中野愛理だ。そう断言できるほど、強い気持ちを感じさせるパフォーマンスを見せてくれた。

西満里奈。
9人の中で一番背も小さく、おっとりしている彼女だが、カミングフレーバーのブレーンであり見守り役として、屋台骨を支える存在なのは間違いないし、実際ステージ上で彼女の小ささを感じたことは今まで一度もない。どの場面でも誰にも負けないぐらい体を動かし、それでいて可愛さに着地させられるダンスは彼女の大きな武器だ。M9『二人だけのパレード』、全てを抱きしめるように両手をゆっくりと広げてセンターに歩み出たその姿に、深い包容力を感じたのはメンバーだけではないはずだ。。

平田詩奈。
きっと、あなたが想像している10倍は、平田詩奈はカミングフレーバーのことを愛している。自分はなぜアイドルになったのか、自分に存在価値があるのか。人知れず彼女は自問自答を続けていた。感情を出すのは得意じゃない。そのせいで、誤解をされたことも一度や二度ではなかったはずだ。「ここに来たこと 後悔してない あなたに逢えたこと」と、落ちサビで自分に向けて8人から歌われるM10『長い夢のラビリンス』で、ちらりと見えた横顔は喜びに満ちていた。自分の居場所を再確認できたかのように。

最後に、野村実代。
 カミングフレーバーは、野村を軸として結成されたグループなのは間違いないだろう。ルックスとスタイルの良さは多くの人が認めるところではあるものの、SKE48という世界でそれ相応の評価と支持を集めてきたかといえば、そうではない。言い方は悪いが、あの場所でのし上がるためには、そこでのみ通じる特殊な能力の獲得と、ある種のストーリー、そして方法論を確立する必要がある。野村は、それがあまり得意なタイプではなかった。
だが、運営サイドとしては若くてビジュアル的なフックがある野村を、選抜入りへの基準は満たせていないが、それなりに耳目を集められる場所に置いてみたかったのではないだろうか。そこに、ファン投票も行われたオーディションを経て2018年2月にお披露目されるも、控えめなポジションにとどまっていたドラフト3期生の4人、そして最も若い世代(当時)として、その時点で期待値が高かった9期生の4人を加えカミングフレーバーは結成された、というのが筆者の見立てである。
 野村は、上記のような理由と9人の中で最も先輩であったことから、自然な流れでリーダー的な役割とセンターポジションを担うことになる。
16歳の野村は大きなチャンスを与えられた。そして同時に、苦難の日々が始まった。カップリング曲収録のために1回こっきり集まっただけではなく、グループとしての活動が本格化してきたことで、カミングフレーバーは「選抜へのステップアップ」という意味合いとは違った方向に進み出していった。誰よりも先輩であり、そして選抜入りにかなり近いところまできていた野村には、それだけ他のメンバーよりもSKE48の色が、よくも悪くも濃く染み付いていた。
カミングフレーバーとは何か。ここに自分がいる意味とは何か。自分はこのグループをどうしていきたいのか。  昨年来、野村は深い自問自答の中にあった。ある時には、自分の中にある気持ちを言葉にできず、メンバーに思いを正しく伝えることができずに涙を流してしまったこともあったと、スタッフから聞き及んでいる。だが、そんな野村を支えたのも、またメンバーたちだった。みんな、自分たちがここにいる理由を証明したかった。そのために与えられた手段が、「ライブ」だった。
 9人は、握手券の売上をはじめとした様々な選抜基準をクリアして選ばれたわけではない。ゲームなどで行われるファン投票によって選ばれたわけでもない。そこには目に見える形での、わかりやすい「理由」がなかった。それによって、少なからぬ反発も生まれている。
 だから、「ライブ」だ。何者でもなかった9人が、ここに立つ理由を証明するためには、今の自分たちを全身全霊で見せつけるしかない。その全員の気持ちを、野村は中心で束ねる覚悟を決めた。ライブ当日の早朝、野村は近所の神社へとお参りにいった。そして自宅へと戻り会場入りまでの時間を過ごしている時に、その半日後、ステージ上で言うことになる言葉が降りてきたという。

 「私たちは、私たちの力で新しい道を切り拓いていきます」

結成から1年が過ぎ、いまや野村は決して、この9人の中で突出した存在ではない。歌も、ダンスも、彼女より優れたメンバーはいる。そのことは本人が一番わかっている。だけど、誰よりもカミングフレーバーのことを考え、みんなが大好きだと言ってくれるこの場所を守りたいという気持ちは、きっと一番だ。
 M17、最後の曲も『せ~ので言おうぜ!』。
 90分前とは全く違う、やり遂げる瞬間を迎えようとしている充実感と、この時間がまもなく終わってしまう寂しさを携えたメンバーたちの中心に、再び野村は戻ってきた。きっとその胸には、「私たちなら切り拓いていける」という想いがあったはずだ。  最後の力を振り絞って、人差し指を天に突き上げた9人は、カミングフレーバーは、この日一番の声で叫んだ。

「さぁ、行くぜ!!!」

 曖昧な未来を追いかけていては届かない。今を、目の前のカミングフレーバーを全力で前にすすめたら、きっと確かな未来はやってくる。9人はその瞬間、一つになっていた。その未来を、彼女たちが駆け抜けていった先に見せてくれるなら、こんなに楽しみなことはない。

「人間は何者かにならなければならない」
 本にはそう書いてあった。でも、誰もが何者かになれるわけではないし、強制されるものでもないと思う。だけどこの日、9人は自分がここにいる理由を、喜びを、全身で叫んでいた。何者でもなかった9人は、はっきりとした輪郭をともなって、そこに立っていた。

 彼女たちは、カミングフレーバーだ。


取材・文/並木愼一郎
撮影/夏目圭一郎(SPINFROG)